1. EC運営の属人化は、なぜ起きるのか
EC運営の現場では、広告運用、販促企画、商品ページ改善、CRM、在庫判断、イベント対応など、日々さまざまな判断が行われています。しかし、その多くが担当者個人の経験や勘に依存しており、施策の意図や判断基準、改善履歴が社内に十分に残らないまま運営されているケースが少なくありません。
実際に、2025年の調査ではECサイト立ち上げ経験者の96.5%が「苦労した」と回答しており、最大の課題は「他担当者の育成」(55.5%)でした。

また、別の調査では一般企業の70.5%の職場で「特定の人物がいないと進まない業務」が存在すると報告されています。EC運営に限らず、属人化は多くの企業が抱える構造的な課題です。

では、なぜEC運営は特に属人化しやすいのでしょうか。原因を大きく3つに整理します。
2. 原因①:判断プロセスの属人化
EC運営の業務には、マニュアル化しやすい定型作業と、経験に基づく判断が求められる非定型業務があります。問題は後者です。
- 広告のROASが下がったとき、いつ停止するか
- レビューにネガティブなコメントがついたとき、どう対応するか
- 競合が値下げしたとき、自社はどう動くか
- 季節イベントの販促で、どのタイミングでどの施策を打つか
こうした戦略的な判断は、担当者個人の経験やカンに依存しがちです。新しい担当者に引き継いだとき、手順は伝えられても「なぜそうするのか」「どういう状況でこの判断をするのか」までは伝わりにくい。
結果として、新任者はマニュアル通りには動けても、イレギュラーな状況で適切な判断ができず、成果が不安定になります。これが「判断プロセスの属人化」です。
3. 原因②:時間不足による仕組み化の停滞
EC運営の日常は多忙です。商品登録、受注処理、顧客対応、広告調整、在庫確認、イベント準備——毎日のルーティンだけで手一杯の現場は珍しくありません。
そのなかで「業務を分析する」「判断基準を言語化する」「SOPを整備する」といった仕組み化の作業は、常に後回しにされます。
現場でよくある声
- 「マニュアルを作る時間がない」
- 「やり方を教える時間より、自分でやった方が早い」
- 「引き継ぎ資料を書く余裕がない」
仕組み化は「やらなくても今日の業務は回る」ため優先度が上がらず、結果として属人化が固定化されていきます。
4. 原因③:教育設計の欠落
多くのEC運営チームでは、新人教育が「OJT(現場での実地指導)」に依存しています。先輩の横で見て覚える、やりながら学ぶ——これ自体は悪いことではありませんが、体系的な教育設計がないまま行われると問題が生じます。
- 教える内容が担当者によって異なる
- 教える順序にばらつきがある
- 「何をどこまで教えたか」が管理されていない
- 教える側の負荷が大きく、通常業務に支障が出る
先述の調査でも、EC担当者育成の具体的な困難として「広告費配分の判断基準が不明確」が最多回答となっており、続いて「実践の場不足」「いきなりの実践投入への躊躇」「感覚依存で説明が困難」などが挙げられています。教える側も「何をどう言語化すればいいかわからない」状態にあるのです。

5. 属人化を解消する4つのツール
属人化を解消するには、「個人の頭のなかにある知識」を「組織の仕組み」へ変換する必要があります。そのために有効な4つのツールを紹介します。
| ツール | 役割 | 限界 |
|---|---|---|
| SOP 標準業務手順書 | 定型業務の手順を標準化し、誰が対応しても同じ品質を担保する | 判断理由や背景が記録されにくい |
| プレイブック | 状況別の判断基準・対応方針を言語化し共有する | 更新運用がないと形骸化する |
| RACI 責任分担マトリクス | 「誰が決めるか」「誰が実行するか」を明確にし、意思決定の停滞を防ぐ | ナレッジの蓄積には対応していない |
| NotebookLM AI活用ツール | 蓄積した情報を横断的に検索・要約・質問できるAIナレッジベース | 元となる情報の整備が前提 |
重要なのは、これらのツールは単体では不十分だということです。SOPだけでは判断力が移転されず、プレイブックだけでは更新が止まる。4つを組み合わせて「記録→整理→標準化→再利用」のサイクルを回すことが、属人化解消の鍵になります。
6. 実践6ステップで属人化を解消する
ここからは、前章のツールを使って実際に属人化を解消していく手順を6つのステップで解説します。
属人化している判断業務を洗い出す
まず、チーム内で「この人がいないと判断できない」業務をリストアップします。広告運用の停止判断、販促施策の優先順位づけ、クレーム対応方針、価格変更の判断など、定型作業ではなく「判断を伴う業務」に絞って洗い出すことがポイントです。
SOPとプレイブックを分離して整備する
洗い出した業務を「手順(SOP)」と「判断基準(プレイブック)」に分けて整理します。
SOP(手順書)
「何を、どの順番で、どうやるか」を記録。商品登録手順、受注処理フローなど。
プレイブック(判断基準書)
「どういう状況で、なぜ、どう判断するか」を記録。広告停止基準、値下げ判断基準など。
RACIで意思決定権を明確化する
各業務について「誰が実行するか(R)」「誰が最終決定するか(A)」「誰に相談するか(C)」「誰に報告するか(I)」を定義します。属人化の多くは「誰が決めるか曖昧」なために起きています。RACIで決定権を明確にすることで、担当者が変わっても意思決定が止まらない体制をつくります。
施策履歴・会議メモ・判断理由を記録する
日々の運営で行った施策、会議での議論、判断の理由を記録として残します。重要なのは「何をしたか」だけでなく「なぜそうしたか」「結果どうなったか」まで記録すること。この蓄積が、後続の担当者にとって最も価値のあるナレッジになります。
NotebookLMで情報を集約・検索可能にする
蓄積したSOP、プレイブック、施策履歴、会議メモをNotebookLMに取り込みます。これにより、「去年のセール施策で何をやったか」「この商品カテゴリの広告停止基準は?」といった質問に、AIが蓄積情報をもとに回答できる状態をつくれます。
引き継ぎ時にNotebookLMを活用する
担当者交代時、新任者はNotebookLMに質問しながら業務をキャッチアップできます。「前任者がこの判断をした理由は?」「このイベントの過去の対応は?」——従来は前任者に直接聞くしかなかった情報を、AIを通じていつでも参照できる状態をつくります。
7. まとめ
EC運営の属人化は、「判断プロセスの暗黙知化」「仕組み化の時間不足」「教育設計の欠落」という3つの構造的な原因から生じます。
これを解消するには、SOPで手順を標準化し、プレイブックで判断基準を言語化し、RACIで意思決定権を明確にし、NotebookLMで蓄積した情報を検索・再利用可能にする——この「記録→整理→標準化→再利用」のサイクルを回すことが重要です。
属人化解消の4ステージ
記録
施策・判断・結果を残す
整理
SOPとプレイブックに分離
標準化
RACIで責任と権限を定義
再利用
AIで検索・引き継ぎに活用
属人化の解消は一朝一夕にはいきませんが、まずは「どの業務が属人化しているか」を可視化することから始められます。小さく始めて、着実に仕組みを積み上げていくことが、再現可能なEC運営体制への第一歩です。
参考文献
